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エムスリー、Visional、DeNAが語るデザインマネージャーの役割 【Design Bazaar ショートレポート #02】

「Design Bazaar -デザインコラボレーション-」は、デザイン起点でのコラボレーションをテーマにしたオフラインイベントです。2023年10月24日に、東京・虎ノ門「THE CORE KITCHEN/SPACE」で開催されました。

マネジメント・エンジニア・プロダクトマネージャーとデザイナーのコラボレーションを軸に、世の中に価値を生み出すデザイン組織やプロダクト開発について探求した本イベント。

Session2では、エムスリー株式会社 古結隆介氏、Visionalグループ 株式会社ビズリーチ 大河原陽平氏、株式会社ディー・エヌ・エー 久田歩氏の3名に、プロダクト組織におけるデザインリーダーの役割についてお話しいただきました。この記事では、そのサマリーをお届けします。


Session 02 :
プロダクト組織におけるデザインリーダーの役割


登壇者

▼ プロダクト組織におけるデザインのミッション


デザイナーが事業にコミットするという共通点を持つエムスリー、Visional、DeNAの3社。セッション前半では、プロダクト組織におけるデザイナーのミッションや具体的な役割、そしてどのような目標を担っているのかについて聞きました。

| 「事業貢献」が大前提 ──  エムスリーにおけるデザイナーの役割

エムスリーのデザイナー組織のビジョン

エムスリーは、「インターネットを活用し、健康で楽しく長生きする人を1人でも増やし、不必要な医療コストを1円でも減らすこと」をミッションに掲げ、日本最大級の医療従事者専用サイト をはじめ70事業/140サービスを展開。世界17カ国に進出しています。古結さんは、エムスリーCDOとして「事業に資するデザイン」を掲げ、約20名のデザイナー組織を率いています。

── エムスリーにおけるデザイナーの役割を教えてください。

エムスリー古結氏:
基本的にベンチャーであるという前提なので、事業貢献がまず大前提としてあります。事業に関わるデザイナーは、事業に対してどれだけコミットできるかということを求めています。デザイナーの役割は明確には決めておらず、担当する事業がブランドを作っていきたいというニーズがあれば、そのデザイナーがブランディングを担当する。

巨大な事業になってくると、グラフィックデザインに強いデザイナーも一緒にやって役割を分担することもあるんですけども、デザイナーが事業に伴走するっていうスタイルから起こる役割っていうのは何でもやるというのを期待しています。

なので、もう本当にもろスタートアップって言うか、ベンチャーというか、
そういうスタイルでやってます。

── 事業に貢献するというミッションを持つにあたり、デザイナーの目標を数値化していると伺いました。どのようにその数値を決めているのでしょうか。

エムスリー古結氏:
考え方として、事業が成り立っているのはデザイナーがいるおかげだと思ってます。デザイナーが形づくらないと我々の手に触れたり、目に見えるってことがありえないという考えを持ってますので、デザインの重要性があるのであれば、それは数値化できるんじゃないかなと考えてます。

サービスによって、32万人の医師が利用しているんですけど、全員が全員32万人使ってるサービスというのはなかなか難しいので、アクティビティをどれだけ伸ばすかという指標や、電子カルテをどれだけ導入していただくかというSaaS(Software as a Service)プロダクトの数値もある。

その中で、その事業の目標を細分化、分解していって、どの数字を持つかっていうのはその方のWillだったり、できることで目標設定しています。目標設定は結構時間かけてますね。責任だけを押しつけるっていうわけにもいかないので、納得感あるもので着地するようにはしてます。

新規事業などは決まらない場合もあります。なのである程度半年かけて追っかけるって話もあると思うんで、その辺は臨機応変にやってますね。

| 各プロダクトに閉じず、HRMOS事業としての体験を追求する

HRMOSのプロダクト群

Visionalグループは、ビズリーチ・HRMOSを主とした人材領域と、M&Aや物流Tech、サイバーセキュリティなどを扱うインキュベーション領域と大きく2つの軸で事業を展開。HRMOS事業は、採用管理やタレントマネジメントシステムに加え、勤怠・経費・労務給与など会社で働く人に関わるサービスを提供しており、大河原さんはそのデザイン責任者としてビズリーチと接続した人材戦略エコシステムの体験設計を担当されています。

── HRMOS事業のデザイナーの役割において気をつけていることは。

Visional 大河原氏:
デザイナー6名でHRMOSの十数個のプロダクトを担当しているので、一人2つ程度のプロダクトを見ていることになります。それぞれが各プロダクトの目標を追っていて、それは当たり前なんですけど、そのプロダクトの目標を追い続けた結果が、結局HRMOSとしてどういう価値になるんだっけっていうところが劣後しやすい構造になってます。

なので、各プロダクトのロードマップを遂行するという目標はもちろん置きながら、「プラスアルファHRMOSとして何ができるんだっけ」とか「どういう体験を生むんだっけ」というのを足すことを気を付けてやってます。

「この事業でこれやろうとしてるけど、他の事業と接続したらどんな意味を生むんだっけ」という解像度を上げた目標を立てられるかは、かなり注意してやってる部分ですね。

── 個々のデザイナーの目標設定はどのように行なっていますか。事業によって工夫するところはあるのでしょうか。

Visional 大河原氏:
例えばビズリーチとHRMOSだと、事業の性質はかなり違います。いわゆる採用プラットフォームとSaaSなので、作るものも違えば、必要なスキルであったり知識も違ってきますと。そういう状態で、各事業において、どういうデザイナーがどういうアクションを取るかどうかというのはかなりカスタマイズする必要があります。

その中で結構重要なのが、その事業の中でデザイナーがたとえすごく頑張っていても、その中でのスキルとか知識でしか物事を解決できないということです。

そういう時にマネージャーは、「そのイシューとこのイシューは結構似てるよね」っていうところの目線を上げてあげる、視座を上げてあげるというのが重要で、それがあるかないかによってデザイナーがやれる領域みたいなものはかなり変わるかなと感じてはいますね。

|事業部よりも事業のことを考え、デザインという武器を使う

DeNAは“一人ひとりに創造を超えるDelightを”というミッションを掲げ、Eコマース、コミュニティ、ゲーム、スポーツ、スマートシティ、ヘルスケアと、インターネットサービスからよりリアルで社会や公共に強く関わる事業まで幅広く展開しています。久田さんは、タクシー配車アプリ「GO」にデザイナーとして関わりながら、DeNAのデザイン本部でマネジメントを担当されています。

──DeNAのデザイン組織の特徴を教えてください。

DeNA久田氏:
DeNAは本当に色々な事業をやっておりまして、会社の中にベンチャー企業がいっぱいあるイメージです。それらを横断する形でデザイン本部は存在しており、“DESIGN FOR DELIGHT” 、会社のミッションをデザインで実現することを目指しています。

デザイン本部の中に大きく2つの部と2つの室があり、そのうちの一つが私が部長をしているサービスデザイン部です。サービスデザイン部は事業部の中に入り込んで、その中でその事業に関わるデザインをやっていくことを役割としています。ベンチャー企業の中のデザイン組織に入っていくイメージです。
 
サービスデザイン部と別にマーケティングデザイン部もあり、作るところからそれを届けるところまでをインハウスで一貫でやっています。事業領域がすごく広いので、さまざまな領域・フェーズが経験できるっていうのがデザイン本部のいいところかなと思っております。あとは、デザイン業務以外の業務、たとえば採用、育成、評価とかはデザイン本部が担保しているので、各デザイナーは純粋にことに向かえる環境というのがデザイナー本部の特徴です。
 
──DeNAでは、デザイナーにどのような振る舞いを期待していますか。
 
DeNA久田氏:サービスデザイン部はベンチャー企業のデザイン部隊がいっぱいいる組織なので個々のミッションって、本当に千差万別なんですよね。
 
ただ、その中で共通して言えるのは、やっぱり「事業部と一体となって」というのがすごくキーポイントだと思っていて、そこにまずフルコミットしないとまず事業部からも信頼されませんし、成果は出せない。

なので、サービスデザイン部としてはとにかく事業に全力コミットしろっていうことと、誰よりも事業のことを考えろぐらいのことは言ってますね。その中で、デザイナーとしての武器、例えばデザイン思考であったり、「作ってみて試す」というのが一番効くところがどこかを探して、そこで成果出すということを求めてたりしますね。

▼ プロダクト組織のデザイン人材


会社のミッションや事業の売り上げに直結するほど重要性を増しているデザイナーの役割。それでは、今どのような人材が事業会社で活躍しているのでしょうか。また、これからデザインリーダーを目指す人にはどのような経験が必要とされるのでしょうか。後半では、デザイン人材をテーマに話を聞きました。

| 「ぼちぼち小さい成功体験を積む」というのがまずは先決

── 活躍するデザイナーの特徴はありますか。

エムスリー古結氏:
さっき川延さんのお話を聞いていて面白いなと思ったのは、WIP(ワークインプログレス)の話で。やっぱり大事なんじゃないかなと思っていて、活躍している人って大概打席に立ってる、そのために素振りしてる人っていうのは多いです。

打席に立ってホームランとかヒットとか言いますけど、要は成果っていうものを積み重ねられる人。成果ってホームランみたいに大きいものを期待してるっていうことと捉えがちなんですけども、私はよく言ってるのは、「ぼちぼち小さい成功体験を積む」というのがまずは先決であると捉えてます。

試しては作って、反応を見て、我々は「2割共有」って言葉を使ってるんですけど、やっぱり自分なりに一つ一つのチャレンジを積み重ねられる方は、デザイン人材に限らず、やっぱり活躍してるんじゃないかなと思います。

Visional大河原氏:
求められる資質やスキルといった観点でいうと、圧倒的に要求要件が複雑なのがBtoBの領域だと思っています。プロダクトの見た目はさっぱりしたものなんですけど、その裏側で考えることの複雑さがめちゃめちゃ多くて、その思考を楽しめるかどうかに、結構合う合わないがあると思ってます。

例えば、一つの要件がなければ、インターフェースもシンプルで、体験もシンプルになる。ただ、その要件を満たさないと、そもそも業務が回りませんみたいなことは結構あるんですよ。それによって、デザインが回り道することがあって、その中でどう突破するのかを考えることを嫌だと思わないかどうか。逆に、それがはまったときの喜びは一段高いものなのかなと個人的には感じてますね。

DeNA久田氏:
なんとなくあるなって思うのは、0→1が得意なデザイナーと1→10が得意なデザイナーってやっぱり違うなと。1→10が得意な人は、前提の要件を読み込んでそれに適切な物を作ってくれるので、アウトプットとしてはいいものができるんですけど、ジャンプを求めてる時にやっぱり足りないということが起きる。

一方で、0→1に特化した人は、要件を案外読んでこないみたいな人もいたりして、だから逆に遠回りするところもあるんですけど、ただジャンプすることがあるので。

スタートアップのように一番規模が小さい時は0→1の人の方が実はワークしたりとか、逆に大きくなってくると、1→10の人を増やした方がワークする、というのは感じますね。

| 1本スペシャリティーが立った上で、ジェネラリストのように振る舞う

──デザイナーを率いる立場になるために、デザイン以外にもいろいろな経験をした方がいいのか。それともデザイナーにこだわったほうがいいのか。これまでの経験からどう考えますか。

エムスリー古結氏:
私のチームに、今最前列に座ってる動画クリエーターの方がいるんですけど、彼は技術でずっと20年、一点突破でやって来られて、世界でもものすごい成果を残されてるんですね。

うちのチームに来て事業に携わるってことが初めての経験だったんですけど、年間4.2億稼いでる動画クリエイターなんですよ。うちの事業で。

だから一点突破で広がるっていうのももちろんいいと思っていて、何が言いたいかっていうと、貪欲に何かを突き詰める力っていうことが一番大事なんじゃないかなと思います。

何でもやるってことも貪欲に突き詰めることの一つとだと思っていて、自分の技術を信じて、その技術で一点突破するというのも一つの貪欲にすることだと思うんで、そこからどう開いていくか、どう収束していくかっていうのは人それぞれですけども、自分の思う自分の信じるものっていうものを突き詰める、自分がどれだけ楽しめるかってことが大事なんじゃないかなっていうふうに思います。

Visional大河原氏:
こういう話をすると生存バイアスが必然であれなんですけど。私の場合は大学卒業してふらふらしてた結果、何となく起業家たちとかと会う機会があって、何かそこでずっとフリーランスみたいなのをやってました。

スタートアップとかに行ったりしたんですけど、基本的に起業家っていう怪物のような人たちなんですよ。もう意地でもこの事業をどうにかすると、何が何でも使うものは使うと、その欲がすごい。

大体キャッシュがどれくらいあって、回らないと後これくらいで事業が終わるなっていうのも計算できる。「じゃあこの足元で何ができるんだっけ」ということを絞り出して考える、やりきることを当たり前のように体験できたっていうのは、今になってみれば良かったなと思います。

要は、どうすればお金っていうものがちゃんと回るのかっていう意識を持った上で、プロダクトをどう作ろうか、デザインしていこうかというのは自然につながるので。あと事業が終わるっていう前提があるので、終わらせない為にどうするかというのがかなり自分の中での思考として大きい理由なのかなと。生存バイアスバリバリですけど、そういうふうには思っていますね。

DeNA久田氏:
そうですね。僕はさっき古結さんが仰っていた、その1本スペシャリティーみたいな話って、先週デザイン本部全体会ってのがあったんですけど、その時同じ話をしたんですよ、実は。

やっぱり1本スペシャリティーが立った上で、ジェネラリストのように振る舞うみたいな形にすると"何"ができる人だって事業部から信頼されて、そこでいろいろなことをやると更に信頼が積み重なるという感じなので。その順番が結構大事かなって思ってます。

僕自身の経験に照らし合わせると、元々ウェブ系の制作会社入って、デジタル周りのデザインである程度経験積んで一本立てて、その上でDeNAに入ってから、今GOなんですけど。

元々GOはタクベルっていう横浜だけだったサービスで、事業に関わっている人が20人ぐらいの1部屋で収まるぐらいだったんですけど、そこから1ヶ月したら気付いたら部屋に収まらないぞ、みたいな。1年したらもう100人超えてる、本当にゼロイチ段階から今スケールするまで全部経験できたっていうので、結構「どういう時にどういうことが起こりがち」というのが、なんとなくひと通り経験できたっていうのはちょっと広がったのかなって思ってます。


▼質疑応答


セッション最後の質疑応答では、デザイナーの評価をどのような指標で行なっているのか、お三方のリアルな考え方が明かされました。

▼まとめ


変化の激しい市場に向き合うベンチャー企業において、デザインが経営や事業に直結する価値をもたらすことが当たり前の認識となっている中、デザイナーの役割もより上流、広範になっています。柔軟に思考し、事業フェーズにあった強みを生かすことの必要性を感じられるセッションでした。

▼セッション動画のご案内


この記事でご紹介したセッション動画全編をYouTubeでご覧いただけます。

Photo: 大竹宏明

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